入学後の GPA ・ 定着率などの客観データで、自学の入試とアドミッション・ポリシーを点検する
前半 60 分の講演で検証の型を共有し、後半 90 分のワークショップでその型を実際に動かす。講演は、後半で手を動かすための道具立てである。
| 時刻 | 内容 | 本日の位置づけ |
|---|---|---|
| 14:00–14:10 | 趣旨説明 | KARN 事務局より |
| 14:10–15:10 | 講演(本パート) | 入試を検証するための考え方、必要なデータ、分析の型、結果の活かし方 |
| 15:10–15:20 | 休憩 | 担当大学の資料に目を通していただく時間 |
| 15:20–16:50 | ワークショップ | 架空大学の職員として、ポリシーをデータで検証し、打ち手を設計する |
| 16:50–17:00 | 総括 | KARN 事務局より |
手法の網羅ではなく、着手できる最小単位を持ち帰っていただくことを目的とする。
本研修の企画にあたり KARN からいただいた依頼を、次の 4 部構成で扱う。最後に、ポリシーの点検と改訂を短く添える。
細部に入る前に、本日いちばん持ち帰っていただきたい主張を先に述べる。
PART 1 で難しさの構造を、PART 2 ・ 3 でデータと分析の方法を、PART 4 で改善プロセスへの乗せ方を扱う。
年内入試の拡大にともなって語られる不安は、多くの場合この 3 つのいずれかに属する。
学力試験を課さない区分で入学した学生は、入学後についていけているのか。基礎学力の不足が退学や留年につながっていないか。
早期に合格が決まった学生の学習が、入学までの数か月で止まっていないか。入学時点での差がその後まで尾を引かないか。
定員の充足は経営上の要請であり、譲れない。求める学生像に合う学生だけを選ぶという前提が、そもそも成り立たない大学は多い。
定員充足という制約は動かせない。だからこそ検証の出発点は「選べているか」ではなく「誰が入ってきているか」になる。この違いが本日の話の軸である。
検証の第一歩は分析ではなく、検証できる問いへの書き換えである。主語 ・ 比較対象 ・ 指標 ・ 時点が必要。
| よく語られる形 | 検証できる形に書き換えると |
|---|---|
| 年内入試の学生は学力が心配だ | 2023 〜 2025 年度入学者について、入試区分別に 1 年次前期 GPA と修得単位数を比較したとき、区分間に差はあるか。差があるなら学部 ・ 学科によって傾向は違うか |
| 合格から入学までに意欲が落ちる | 入学前教育の受講の有無別に、入学時プレイスメントテスト得点と 1 年次前期 GPA に差はあるか。受講者と非受講者では、そもそも入学時点の属性が異なっていないか |
| 指定校は面倒見が必要だ | 指定校推薦入学者の 1 年次退学 ・ 休学率は他区分と比べて高いか。高いとすれば、離脱は何月に集中しているか |
| 求める学生像に合った学生が来ている | ポリシーに掲げた各資質について、入学後に測定している指標が存在するか。存在する場合、区分間 ・ 学部間で差はあるか |
逆に、書き換えられない問いは、いま持っているデータでは検証できない問いである。それが分かること自体が最初の成果になる。
PART 1
3 つのポリシーの検証は、実際には DP ・ CP から進み、AP が最後に残る。なぜそうなるのかを確認したうえで、AP 検証の現実的な出発点を定める。
3 つのポリシーの検証はいずれも求められる。しかし実際に学内で進むのは DP → CP → AP の順であり、AP は最後まで手がつかないことが多い。
学習成果の可視化という別の強い文脈に後押しされて先行する。卒業時の到達、学位授与、進路、卒業生調査。認証評価でも真っ先に問われる。
DP に接続する形で続く。GPA ・ 修得単位 ・ 進級判定 ・ 授業評価。科目レベルの成績評価まで降ろせば、手元のデータで組み立てられる。
最後に残る。入口のデータが教務データとつながっていないうえ、後述する構造的な事情がある。制度として要求されていない場合すらある。
とくに私立大学において AP の検証が進まないのは、定員の充足が経営の前提だからである。この制約を認めたうえで、できることを設計する必要がある。
求める学生像を定義し、選抜でその資質を確認し、合致した者を入学させる。合致しない志願者は選ばない。
この筋道が成立するのは、志願者数が募集人員を十分に上回り、選抜の自由度が確保できている場合に限られる。
AP は検証したい。AP を満たす学生が入学してくればよい。しかし、そうはできないことが多い。年内入試の拡大も、多くはこの制約への合理的な対応である。
この状況で「選抜は妥当だったか」だけを問えば、答えは出ないか、現場を萎縮させるかのどちらかになる。
選べているかを問う前に、入ってきた学生の実態を記述する。そのうえで、実態を AP と入試の設計に反映していく。順序を逆にすることで、制約の下でも検証は動き出す。
入試を「合否を決める行為」とだけ捉えると、選べない大学では打つ手がなくなる。入試には選抜と育成の二つの機能があり、後者は制約の下でも設計できる。
調査書、学力試験、小論文、面接、活動報告、資格。いずれも入学後の学びの一部しか写していない。これらから入学後の学びと定着を予測し、合否を決める。
検証すること:入口の情報と入学後の成果を結びつけ、予測が当たっていたかを確かめる。
接点をつくり、学びの実像を見せ、合格後の数か月を設計する。入学時点の状態は、選抜の結果であると同時に、入学前に大学が何をしたかの結果でもある。
検証すること:入学前の働きかけが、入学時点の状態にどう表れているかを確かめる。
同じ入試方式でも、学部の教育内容や初年次のカリキュラムが違えば結果は変わる。検証は常に自学 ・ 自学部の文脈で行う。
選抜は一点にすぎない。入学前のタッチポイントから初年次教育までを一続きの「入口」と捉え直すと、AP に働きかけられる場所が六つに増える。
資料請求、相談会、高校訪問、web。関心を持つ母集団がここで決まる。
学びの実像を見せる場。事実上のミスマッチ予防装置として働きうる。
従来の「入試」。育成型なら選抜の過程自体が働きかけになる。
年内入試ほど長い。設計すれば最も長く働きかけられる期間になる。
基礎学力と学習習慣の担保。到達基準まで踏み込めば選抜の代替になる。
入学後 1 年までが入口の仕上げ。接続支援とリメディアルを置く。
選抜で AP を確認しきれないなら、確認の場を入試の前後に置く。入口の全体で AP を満たす学生に育てる、という育成型の発想に切り替える。
教育測定の分野では、妥当性を複数の観点から検討する。入試に引きつけると、次の 3 つが実務的に扱いやすい。
ポリシーに掲げた資質能力が、選抜の各要素に対応しているか。
確認方法:ポリシーの記述と選抜要素の対応表をつくる。対応のない記述、根拠のない要素を洗い出す。
選抜で得た情報が、入学後の GPA ・ 継続率などとどう関係しているか。
確認方法:入試区分別 ・ 入試成績別に入学後指標を比較する。本日の分析事例の中心はここ。
「主体性」「協働性」を面接や書類で測ったとして、それが実際にその資質を反映しているか。
確認方法:入学後の行動指標(履修行動、参加状況、学修行動調査)との関係を見る。
対応表をつくる(01)と、いま検証できる項目とできない項目が分かれる。検証できる項目は入学後データと突き合わせる(02)。03 は中期的な課題として置いておく。
下の階層ほど着手しやすく、上の階層ほど示唆が大きい。下から順に積み上げるのが実務的である。
「掲げているが測っていない」項目が見つかった時点で、それは立派な検証結果である。認証評価で指摘を受けるのも、多くはこの階層である。
ポリシーの言葉は抽象的でよい。ただし検証するには、観察できる行動と既存のデータまで降りる必要がある。
| ポリシーの記述 | 観察できる行動に置き換えると | 既存データで代替できるもの | 取得時点 |
|---|---|---|---|
| 基礎的な学力を 有している |
入学時点で当該分野の基礎知識を保持している | プレイスメントテスト得点、入試成績、履修科目、資格 | 入学時 |
| 主体的に学ぶ 意欲がある |
課された以上の学修に取り組む。履修 ・ 参加を自ら選ぶ | 授業外学修時間、任意プログラム参加、図書館 ・ LMS 利用 | 1 年次前期以降 |
| 多様な人々と 協働できる |
集団での活動に継続的に関与し、役割を果たす | PBL ・ 演習科目の評価、学修行動調査の該当設問、課外活動の継続 | 1 年次後期以降 |
| 本学での学びに 関心がある |
学部の学修内容を理解したうえで進学を決めている | オープンキャンパス参加履歴、志望理由の類型、転学部希望 | 入学前 ・ 入学直後 |
限界を明示したうえで使うほうが、測らないよりはるかによい。精度は運用しながら上げていく。
縦にポリシーの記述、横に測定の時点を置いた表を 1 枚つくる。これが検証の設計図であり、アセスメントポリシーの実体(アセスメントプラン)でもある。
| 求める学生像 | 入口(入試 ・ 入学時) | 過程(在学中) | 出口(卒業時) | 判定 |
|---|---|---|---|---|
| 基礎学力 | 学力試験、プレイスメントテスト | GPA、修得単位数 | 卒業率、標準年限卒業率 | ◎ 検証できる |
| 学修意欲 | 新入生アンケート | 授業外学修時間 | − | △ 部分的 |
| 協働性 | 入学前教育 | (記載なし) | (記載なし) | ? 検証できない |
| 分野への関心 | 志望理由書、新入生アンケート(外部アセスメント) | 退学 ・ 転学部の理由 | 進路の分野一致率 | ◎ 検証できる |
空欄は「測っていない」の可視化である。ポリシーを下げるか、測定を足すかの議論に入れる。
「この資質は、どの区分でどう確認しているか」を書き込むと、区分ごとの確認方法の抜けが見える。
多くの大学で、次の 4 つのいずれかが見つかる。いずれも珍しいことではなく、見つかった時点で改善の起点になる。
ポリシーに書かれた資質に対応する指標が存在しない。もっとも多い型で、認証評価で指摘される典型でもある。
調査もテストも実施しているが、入試区分と結びつけて見たことがない。データは既にあり、着手のコストは低い。
「基礎学力を選抜において確認する」と明記しながら、拡大中の区分では確認していない。
全学共通の指標だけで測っているため、学部ごとの課題が平均に埋もれる。複合大学で起きやすい。
既に取っているデータを入試区分別に割り直すだけで、議論の材料は相当に増える。
PART 2
検証に使えるデータの多くは、既に学内のどこかにある。問題は、それが散在していて、つながっていないことである。
入学前から卒業後までを 4 つの時点に分け、それぞれで既に取れているものを書き出す。新しく取るものを考えるのは、この作業の後である。
オープンキャンパス参加履歴、資料請求、模擬授業参加、出願区分、併願状況、入学前教育の受講と課題提出
入試区分、入試成績(科目別)、調査書の評定、出身高校の所在地 ・ 種別、履修科目、資格 ・ 検定、プレイスメントテスト
学期ごとの GPA、修得単位数、必修科目の成績、再履修、履修登録単位数、学修行動調査、LMS ・ 図書館の利用、面談記録
在籍状況(継続 ・ 休学 ・ 退学 ・ 除籍)と離脱時期 ・ 理由、卒業率、標準年限卒業率、進路、資格 ・ 国家試験、学位授与
個々の集計値が出せることと、個人単位でつなげられることは別である。つながらなければ「区分別の GPA」すら出せない。
検証が進まない理由の多くは、分析技術ではなくデータが部署をまたぐことにある。着手前に所在と依頼先を一覧化しておく。
| データ | 主な所管 | よくある形式 | 実務上の要注意点 |
|---|---|---|---|
| 入試区分 ・ 入試成績 | 入試課 | 入試システム、Excel | 合格者ベースで管理され、入学者に絞る作業が要る。区分名が年度で変わることがある |
| 出身校 ・ 調査書 | 入試課 | 紙 ・ PDF が残ることも | 評定平均は電子化されていても、履修科目は紙のみという例が多い |
| 成績 ・ 単位 ・ 在籍 | 教務課 | 教務システム | GPA の算出定義(再履修 ・ 認定単位の扱い)が学部で異なる場合がある |
| 退学 ・ 休学の理由 | 教務課 ・ 学生課 | 届出の自由記述 | 「一身上の都合」が最多。面談記録と併せないと実態が見えない |
| プレイスメントテスト | 共通教育 ・ 外部委託 | 委託先の集計表 | 個票が学内に戻っていないことがある。契約時に個票の返却を条件にする |
| 学修行動調査 | IR ・ 教学部門 | アンケートシステム | 匿名回答だと接続できない。学籍番号の取得可否が分岐点になる |
| オープンキャンパス | 広報 ・ 入試広報 | 受付システム、名簿 | 入学後に照合する前提で設計されていない。氏名 ・ 生年月日での突合になりがち |
| 進路 ・ 資格 | キャリアセンター | 進路調査、就職支援システム | 未把握者の扱いで数値が変わる。分母の定義を確認する |
すべてを一度に整えようとすると動けなくなる。入試区分 + 次の 5 つがあれば、検証の第一歩は踏み出せる。
単年度では偶然の変動と区別がつかない。過去 3 年分を同じ定義で並べることを最初の目標にする。
入試データと教務データは別のシステムにあり、キーが異なる。この接続表があるかどうかが、検証できる大学とできない大学を分ける。
過去に遡れなくても、来年度以降の検証基盤にはなる。入学手続の事務フローに 1 項目加えるだけで済むことが多い。
同じデータでも、どの単位で割るかによって見える景色が変わる。集計単位は分析の結論を左右する設計事項である。
全学一括の平均は、学部間の差を打ち消してしまう。まず学部で割り、その中で区分を比べるのが基本形である。
学科まで割ると人数が足りなくなることが多い。学部で始めて、必要に応じて下ろす。
総合型 ・ 学校推薦型(公募 ・ 指定校)・ 一般 ・ 共通テスト利用 ・ その他、の 5 分類が扱いやすい。
年度で名称が変わった区分は、実質的な選抜方法で対応づける。対応表を残しておくと後で困らない。
10 名を下回るセルは、平均値の変動が大きく、個人が特定されうる。件数を併記し、必要なら年度をまとめる。公表資料では非表示にする判断もある。
入学者か、在籍者か、当該学期の履修者か。退学者を含むか除くか。分母が変われば率は変わる。表には必ず n を書く。
教学 IR は個人情報を扱う。手続きを先に整えておくほうが、結果として速く進む。
学内限りの検証であれば、既存の学務規程の範囲で実施できることが多い。まず所管部署と利用目的を確認する。
PART 3
架空の大学のデータで、分析の型を確かめる。難しい手法は使わず、表計算ソフトで再現できる範囲にとどめる。
高度な統計手法を用意する必要はない。次の 4 つの見方を順に当てるだけで、検証としては十分に機能する。
入試区分別、学部別、受講の有無別に平均値と割合を比べる。もっとも基本で、もっとも使う。
例:区分別の 1 年次 GPA
平均だけでなく、散らばりと形を見る。二峰性、下位層の厚みは平均には出ない。
例:プレイスメント得点の分布
学期ごと、年度ごとに並べる。いつ差が開くか、いつ離脱するかが分かる。
例:継続率曲線、年度推移
入口の指標と入学後の成果を突き合わせる。クロス集計と散布図で十分に始められる。
例:評定平均と GPA の関係
「差がある / ない」を見たら、必ず分布に降りる。平均の比較だけで結論を出すと、次のスライドのような読み違いが起きる。
架空の A 大学 経営学部(1 学年 480 名)。1 年次前期 GPA を入試区分別に見た結果である。
最大(一般 2.82)と最小(指定校 2.63)の差は 0.19。各区分の標準偏差(0.72 〜 0.91)に比べて小さく、平均だけを見れば「大きな差はない」という結論になる。
エラーバー(± 標準偏差)の長さに注目する。指定校の散らばりが他区分より大きい。平均が同じでも、中身の構成が違う可能性がある。
架空の A 大学 経営学部、2025 年度入学者。棒は平均値、縦線は ± 1 標準偏差。
本スライドの数値はすべて研修用に作成した架空のものである。
前スライドで散らばりが大きかった指定校推薦の GPA 分布を、一般入試と重ねて描いた。
平均 2.63 は 2 つの山の中間にすぎず、実際にはその値の学生が最も少ない。平均値がどの学生も代表していない状態である。
下位の山は誰か。特定の高校か、特定の履修歴か、入学前教育の未受講者か。下位の山だけを取り出して属性を見るのが次の一手になる。
架空の A 大学 経営学部、2025 年度入学者。GPA を 0.5 刻みで集計。
退学率は年度末の 1 点でしか見ないことが多い。月次で継続率を追うと、支援を置くべき時期が特定できる。
指定校推薦入学者の 1 年次継続率は 91.4%。減少の約 6 割が、前期成績の発表から後期開始までの時期に起きている。
年度末の面談では遅い。前期成績発表の直後に、修得単位数が一定を下回った学生への面談を置く、という具体的な設計に落ちる。
架空の A 大学 経営学部、2025 年度入学者 480 名。各月末時点で在籍している者の割合。
任意参加の入学前教育について、受講者と非受講者を比べた。この比較には落とし穴がある。
| 指標 | 受講 n=86 | 非受講 n=56 | 差 |
|---|---|---|---|
| 1 年次前期 GPA | 2.84 | 2.31 | +0.53 |
| 修得単位数 | 20.4 | 17.1 | +3.3 |
| 1 年次退学率 | 3.5% | 12.5% | −9.0 pt |
| 入学時プレイス メント得点 | 62.8 | 54.2 | +8.6 |
| 調査書 評定平均 | 4.12 | 3.78 | +0.34 |
架空の A 大学 経営学部、指定校推薦入学者 142 名。入学前教育は任意受講。
下 2 行に注目する。受講者は入学前の時点でプレイスメント得点も評定平均も高い。GPA の差 0.53 のうち、どこまでが入学前教育の効果で、どこからがもともとの差かは、この表からは分からない。
入学時点の学力層で層別して比べる。同じ得点帯の中で受講 ・ 非受講を比較すれば、もともとの差の影響を減らせる。
必修化して全員に課す。任意である限りこの問題は残る。必修化は、教育上の判断であると同時に検証上の判断でもある。
因果を厳密に示せなくとも、非受講者に退学が偏っている事実は支援対象の特定に使える。
架空の B 大学(4 学部 ・ 1 学年 1,200 名)。左の全学サマリーは平穏に見えるが、右のように学部で割ると景色が変わる。
| 入学定員充足率 | 97.4% |
| 1 年次 GPA 平均 | 2.71 |
| 1 年次退学率 | 3.5% |
| 年内入試比率 | 58.0% |
いずれも前年度から大きな変化はない。この表だけを見れば「特段の課題はない」と報告される。
| 学部 | 入学者 | 充足率 | GPA | 退学率 | 年内比率 |
|---|---|---|---|---|---|
| 経営学部 | 452 | 103% | 2.66 | 3.2% | 61% |
| 情報学部 | 318 | 106% | 2.88 | 2.4% | 48% |
| 人間科学部 | 271 | 102% | 2.79 | 2.9% | 55% |
| 国際学部 | 129 | 72% | 2.34 | 6.8% | 74% |
在籍者数が小さいため、全学平均にはほとんど影響しない。数が少ない学部ほど、全学平均に埋もれるという構造がある。
「全学部共通の基準で測定 ・ 比較する」と定めている場合、学部固有の課題を拾う仕組みがない。学部ごとの求める学生像に対応する指標を、少なくとも 1 つは置く必要がある。
架空の C 工科大学。ポリシーには「数学 ・ 理科の基礎学力を入学者選抜において確認する」とあるが、区分別に確認方法を並べると運用がポリシーと合っていないことが分かる。
| 入試区分 | 入学者 | 数学の学力確認 | 数学プレイス メント基準未達 |
物理未履修 | 1 年次退学率 | 判定 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 一般 | 204 | 数学 ・ 理科の学力試験 | 8.3% | 2.0% | 1.5% | ◎ 一致 |
| 公募制推薦 | 118 | 基礎学力試験(数学) | 14.4% | 9.3% | 2.5% | ◎ 一致 |
| 指定校推薦 | 312 | 書類 ・ 面接のみ | 38.1% | 27.6% | 6.4% | ? 不一致 |
| 総合型 | 96 | 課題レポート ・ 口頭試問 | 22.9% | 18.8% | 3.1% | △ 部分的 |
基準未達者 208 名の 1 年次退学率は 9.6%、達成者は 2.1%。入口の学力差がそのまま離脱に結びついている。
指定校を絞ることが難しいなら、担保の場を入試の外に置く。入学前教育の必修化と到達基準の設定、初年次のリメディアル配置、募集段階での学びの実像の提示。
架空の C 工科大学、2025 年度入学者 730 名。数学プレイスメントの基準点は学部が定める到達水準。
検証は、数字を出すことより読み違えないことのほうが難しい。次の 4 点を会議の共通ルールにしておく。
区分間に差が出ないことは、選抜が機能していないことを意味しない。むしろ入学後の教育が差を埋めている可能性がある。差がないという結果は、現場の不安を鎮める根拠として使える。
「オープンキャンパス参加者は退学が少ない」は、参加が退学を防いだことを意味しない。もともと志望度の高い層が参加している。効果を語るなら、比較する集団の条件を揃える工夫が要る。
率だけを示さない。n が 20 名のセルで 5 pt の差は、1 名の増減で動く。表と図には常に n を書き、少数のセルは強調しない。
「指定校が悪い」という結論は、議論を止めるだけで改善につながらない。問うべきは「この区分で入学した学生に、必要な支援が届く仕組みがあるか」である。
入試 ・ 広報 ・ 教務が同じ数字を見て、それぞれの持ち場で打てる手を決めるための材料をつくることにある。
PART 4
検証は報告書を書いて終わるものではない。打ち手に変換し、その打ち手が効いたかをまた測る。この循環を教育マネジメントとして回し続けることが目的である。
1 周を 1 年で回す。入試 ・ 広報 ・ 教学のカレンダーに、あらかじめ 4 つの時点を書き込んでおくことが定着の条件になる。
初年度は指標が粗くてよい。同じ指標を 3 年続けることのほうが、精密な指標を 1 年だけ測ることより価値がある。
検証で見つかった課題に対して、打てる手は入試の中だけにあるわけではない。起点を 3 つ持っておくと、実現可能な案が出やすい。
選抜要素の追加、出願要件の変更、判定基準の見直し、区分ごとの募集人員の調整。
効果は大きいが、要項の確定時期と高校への周知期間の制約を受ける。年内入試の縮小は歩留まりに直結するため、単独では動かしにくい。
オープンキャンパスでの学びの実像の提示、体験プログラムの設計、高校訪問での情報提供、出願前の面談。
入学前のミスマッチを減らす効果が期待できる。参加履歴を記録しておけば、入学後の追跡と結びつけられる。
入学前教育の必修化と到達基準の設定、初年次のリメディアル配置、成績不振者への面談の時期設計。
もっとも自学の裁量で動かしやすく、効果測定も設計しやすい。まずここから着手する大学が多い。
結果を入試課だけで持っていると、打ち手も入試の中だけに閉じてしまう。報告の場を 3 部署共通にすることが、実は最大の仕掛けである。
「効いたかを何で確認するか」を決めていない打ち手は、次の年に評価できない。この 1 行を書けて、はじめて設計が完了する。
| 検証で見えたこと | 起点 | 打ち手 | 効果を確認する指標 | 確認時期 |
|---|---|---|---|---|
| 指定校で数学を確認していない | 入試 | 出願要件に数学の履修 ・ 評定条件を追加。基礎学力確認テストを面接日に併実施 | 数学プレイスメント基準未達率(区分別)、必修数学科目の単位修得率 | 翌年 5 月 翌年 9 月 |
| 入学前教育が任意で受講率 55% | 教育 | 必修化し到達基準を設定。未到達者には入学直後に補講を配置 | 受講率、到達基準達成率、1 年次前期 GPA と修得単位数の分布 | 翌年 4 月 翌年 9 月 |
| 離脱が 8 〜 10 月に集中 | 教育 | 前期成績発表直後に、修得単位が基準を下回った学生への面談を制度化 | 面談実施率、後期の継続率、10 月時点の在籍率(区分別) | 当年 10 月 翌年 3 月 |
| OC 体験参加者は離脱が少ない | 広報 | 体験プログラムの回数を増やし、総合型の出願前面談で参加を推奨 | 出願者の OC 参加率、参加 ・ 非参加別の 1 年次継続率(人数を併記) | 当年 11 月 翌年 3 月 |
| 協働性を測る指標が存在しない | 教育 | 学修行動調査に該当設問を追加。演習科目のルーブリックに観点を明記 | 調査の該当設問の回答分布、演習科目の観点別評価の分布 | 翌年 12 月 |
ポリシーの改訂は、理念の書き換えから始めるより、測る指標の追加から積み上げるほうが現実的に進む。
同じ検証結果でも、相手によって示すべき粒度と語り口が変わる。資料は 1 種類では足りない。
| 相手 | 関心のありか | 示すもの | 避けること |
|---|---|---|---|
| 役員会 ・ 理事会 | 定員充足、退学率、財政への影響、認証評価への対応 | 全学の推移と学部別の内訳を 1 枚に。課題と打ち手、必要な資源を明示する | 手法の説明に紙面を割くこと |
| 教授会 ・ 学部 | 自学部の学生の実態、担当科目との関係 | 学部別 ・ 科目別の数字。つまずいている科目と時期を具体的に | 全学平均だけを示すこと |
| 入試委員会 | 次年度の要項に何を反映するか、募集人員の配分 | 区分別の入学後成果と、要項確定までのスケジュール | 区分の優劣として語ること |
| 高校 ・ 高大接続 | 送り出した生徒がどうなっているか、指導への示唆 | 集計された傾向、入学前に身につけておくとよい学習の具体 | 個々の生徒 ・ 個別高校の特定につながる情報 |
| 学内の担当者 | 自分の持ち場で何を変えるか | 集計の定義と再現手順。翌年も同じ数字を出せる形で残す | 属人的な集計にとどめること |
「本学の指定校推薦で入学した生徒は、数学の学び直しに苦労している」という事実は、高大接続の対話の出発点になる。それが本ネットワークの趣旨にも重なる。
PART 5
検証の積み重ねは、最終的にアドミッション・ポリシーとアセスメントポリシーの改訂に帰着する。最後にその点検の観点を確認する。
自学のアドミッション・ポリシーを開いて、次の 8 点を確認する。3 つ以上に「いいえ」がつけば、改訂の検討に入る。
測れない資質を掲げ続けるより、いま測れる範囲に記述を合わせ、測定を足しながら記述を戻していくほうが、内部質保証としては誠実である。
「主体性」「協働性」「多様性の理解」。多くのポリシーが掲げ、多くの大学が測れていない。取りうる態度は 3 つある。
いま測れる資質に記述を絞る。ポリシーの見かけは地味になるが、掲げたことは必ず検証できる状態になる。
認証評価の観点からは、掲げて測らないより一貫している。
完全には測れなくとも、関連する行動を指標にする。任意プログラムへの参加、演習科目の観点別評価、学修行動調査の設問。
限界を明示したうえで使う。多くの大学にとって現実的な選択。
ルーブリックを整備し、初年次科目に共通の評価観点を置く。中期的な取り組みとして、教育課程の側から設計する。
資源を要するが、カリキュラム改革と一体で進めれば実現しうる。
どの態度を選ぶかは各大学の判断でよい。判断したこと自体を記録に残し、次の点検で見直せるようにしておく。
定員充足という制約は動かせない。「選抜は妥当だったか」の前に「どのような学生が入学したか」を記述する。そこから AP と入試の設計に返す。
主語 ・ 比較対象 ・ 指標 ・ 時点の 4 つが入った問いに直す。書き換えられない問いは、いまのデータでは検証できない問いである。それが分かること自体が最初の成果になる。
区分間の平均差は小さくても、分布は二峰に分かれていることがある。全学平均は学部の課題を隠す。集計単位の選び方が、結論を左右する。
「効いたかを何で確認するか」まで書いて、はじめて設計が完了する。返す相手ごとに粒度を変え、既存の検証プロセスに乗せて、はじめて仕組みになる。
過去 3 年の入学者について、学部別 ・ 入試区分別の 1 年次前期 GPA と修得単位数、そして 1 年次末の継続状況。この 1 枚から始められる大学は多い。
15:20 から、皆さんには架空の大学の職員になっていただく。IR 室から提出された年次報告ダッシュボードを読み、その大学のポリシーを検証していただく。
皆さんは、ある大学の教学マネジメント委員会のメンバーである。来月の役員会までに、アセスメントポリシーの点検結果と改善提案を報告しなければならない。
手元には、IR 室が提出してきたダッシュボードと、自学のポリシーがある。
ワーク 1 ポリシーの記述を 1 つずつ「データが支持する」「実態と乖離がある」「そもそも検証できない」に仕分ける。はじめの 6 分は個人で考えていただく。検証できない項目を最低 1 つ見つけていただきたい。
ワーク 2 入試 ・ オープンキャンパス ・ 入学前教育のいずれかを起点に打ち手を設計する。こちらもはじめの 5 分は個人で。効果を何で測るかまで書けて完成である。
ただし、そこに現れる課題は、どこかで見た景色のはずである。休憩の間に、お手元の大学の資料に目を通しておいていただきたい。
ご質問は、このあとのワークショップの机間巡回でもお受けします。
ワークショップの資料一式は架空データのため、学内の FD ・ SD 研修にそのままお使いいただけます。